《MUMEI》

「俺もやる。」



続いたのは未來。



「…他は?」



「俺も。」



「俺もやりたいっす。」



普段こんな面倒な仕事は後輩たちに押しつける3年陣が、


今回ばかりは率先して仕事をやろうとしていた。


決勝を間近で見れるのだ。


おかしい状況ではない。



「…わかった。お前らでいい。」



ガチャッ…



「さぁ、そろそろ出るぞ。」



控え室を後にする海南高校。


女子の決勝に盛り上がる熱気は人気のない通路にも伝わっていた。


そして、



「あっ…」



会場以上にそういった雰囲気を感じさせたのは、


対面からこちらへ向かう赤高選手陣。



ゾクッ…



すれ違う瞬間、
千葉は身震いした。



(何て存在感だこいつら…)



顔見知りとはいえ、
ここで彼らに会話はない。


千葉は思わず萎縮した。


その圧倒的な雰囲気の前に、


言葉が出るはずもなかった。



(毎年のことだけど…


決勝前の選手たちってのはすげぇ雰囲気出してる。


こういうのを感じさせられると、


こいつらは決勝に出るべくして出た選手だと、


改めて実感させられる…)



「ん…」



赤高の選手たちの最後尾を歩くクロが、


千葉の存在に気付く。



「…お疲れ。」



すれ違い間際、
クロはそう呟く。



「くっ…」



気持ちが溢れだした。


そこで初めて千葉は、
『引退』するのだと実感した。



「クロさんッ!!!」



千葉はクロを呼ぶ。



「ん?」



振り返るクロ。



「…勝って…勝ってくださいッ!!」



その言葉を聞いたクロは笑う。



「…頑張るわ。」

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