《MUMEI》

中庭から無理矢理細い裏通路を擦り抜け、私は久しぶりに病院の敷地から出た。

こんな通路から外に出られるなんて全然知らなかった。


唖然としながら彼に手首を掴まれたまま、私は大分歩かされた。



「ね、10分以上経ってる」


「はあ、もう着いた…」


「え?」


そこは見渡す限り、一面たんぽぽの草原で…。


「おいで」


男の子に手を掴まれ、私は急な土手を下り、草原へと入った。







草原の真ん中まで来ると男の子は私を離し、ばふっとそこに寝転んだ。


私は仕方なしにその隣に座った。



「な、寝転んだ方がすっげー空見えるよ」


「…………」



歩き疲れたのもあるし、私は仕方なく隣に寝転んだ。







短い草の上は意外に柔らかくて暖かくて。真っ青な空に時々たんぽぽの綿毛が、風に乗って舞飛んでいる。


「たんぽぽってスゲーよな…、最初は一つの花なのに、一気に色んなとこ飛んでって、色んなとこに根付く事が出来る」


「………」



「多少踏まれたってへこたれないで頑張って花を咲かせる…」


男の子はたんぽぽを契り、ふうと綿毛を飛ばした。




それはキラキラと光りながら、ゆっくりと空に飛んでいく…。

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