《MUMEI》
中庭から無理矢理細い裏通路を擦り抜け、私は久しぶりに病院の敷地から出た。
こんな通路から外に出られるなんて全然知らなかった。
唖然としながら彼に手首を掴まれたまま、私は大分歩かされた。
「ね、10分以上経ってる」
「はあ、もう着いた…」
「え?」
そこは見渡す限り、一面たんぽぽの草原で…。
「おいで」
男の子に手を掴まれ、私は急な土手を下り、草原へと入った。
▽
草原の真ん中まで来ると男の子は私を離し、ばふっとそこに寝転んだ。
私は仕方なしにその隣に座った。
「な、寝転んだ方がすっげー空見えるよ」
「…………」
歩き疲れたのもあるし、私は仕方なく隣に寝転んだ。
短い草の上は意外に柔らかくて暖かくて。真っ青な空に時々たんぽぽの綿毛が、風に乗って舞飛んでいる。
「たんぽぽってスゲーよな…、最初は一つの花なのに、一気に色んなとこ飛んでって、色んなとこに根付く事が出来る」
「………」
「多少踏まれたってへこたれないで頑張って花を咲かせる…」
男の子はたんぽぽを契り、ふうと綿毛を飛ばした。
それはキラキラと光りながら、ゆっくりと空に飛んでいく…。
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