《MUMEI》

「……」

彼女はさっきまで知人(?)がいた場所を見つめたまま固まっている。

そんな姿を見ていると、言い様のない不安が津波《つなみ》となって押し寄せてくる。

話しかけてくる様子もなく、このままではラチがあかない。それに幾《いく》つか疑問も出てきた。

彼女の知人(?)によると、彼女は事故でヤバイ状態(デマかもしれない)らしい。

だが実際、目の前にいる彼女は、このとおりピンピンしている。

それにウチのクラスの担任によれば、最近事故が多く、各校でも交通指導の強化をすることになった。

事故で思い出すのが今朝のニュースだ。アナウンサーは……何て言ってた?

壬豊《みとよ》市の国道で、歩道を歩いていた……女子高校生が車で撥《は》ねられて、その子は意識不明の重体……だったはず。

名前はたしか、テレビの画面にも出ていた。歳は十六のタメだったと思う。あとは名前……名前だけなんだ。


……ああ〜、やっぱ思い出せねぇ! 足元に視線を落とし、腹立ち紛れに地面を何度か蹴る。


『重傷』高校生・井下和美《いのしたかずみ》さん(十六)

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