《MUMEI》

言い募れば言い募るほど、それがかえって疑わしく
疑惑の視線を美保へと向けてやる
「な、なんですか?そのジト見は」
「別に」
「わ、私は別に、兄と井上さんをくっつけようとか企んだりしてないですから」
「……」
うっかりなのか、自らの思惑を暴露してしまった美保
咄嗟に口元を手で押さえるが後の祭り
井上は更に怪訝な表情を美保へと向けていた
「何?あいつってそっちの気がある訳?」
「そ、そういう訳じゃないんだけど……」
「じゃ、何?」
口籠る美保へ更に井上は言い迫る
顔を更に近づけてやれば、観念したかの様に話す事を始めていた
「……少しでも、何かに執着してくれる様になってくれればって思ったの」
「は?」
予想外に真面目な返答につい聞き返してしまえば
美保は僅かに溜息をついて見せ
「妹として心配な訳よ。あれだけ何に対しても無関心だとね」
「で?」
「それで、誰かと同居でもさせてみたら、興味位持ってくれるんじゃないかなって」
「なら、女に頼めよ」
「そんな事して万が一間違いが起こったりしたらどうするんですか!?」
「俺とだって別の意味で間違いが起こったらどうすんだよ!?」
そっちの方が大問題だ、とつい怒鳴ってしまえば
途端に美保が眼尻に涙を溜め始めた
「そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないですか!私だってふざけてる訳じゃないんですよ!」
等々泣きだしてしまった美保
傍から見れば、井上が泣かせてしまった様に見え
ソレは事実なのだが、通り過ぎる通行人の視線が痛く
「あー、もう!」
このままでは針の莚だと
井上は美保の手首を掴むと身を翻し
向かう方向が同じなのを良しとし、走る事を始めていた
「泣くってのは卑怯だろ!」
「卑怯でいいもん!あそこにずっと居てよ!」
段々とだだっ子の様になっていき
井上の服の裾を強く握り締め、唐突に脚を止める
「!?」
その弾みで首が閉まり、瞬間息が止まり
何をするのか、と首だけを巡らせ美保を睨みつけていた
「……離して欲しいんだけど?」
「嫌」
「学校、遅刻しそうなんだけど」
「そんなの私だって同じだもん!」
何か文句でもあるのか、と胸を張られ
これ以上のやり取りは時間の無駄かもしれない、と
井上は美保の手を緩く解くとまた歩く事を始めていた
「なっ……」
突然のソレに驚き、その場に立ちつくす美保を放り置き
暫く走り、その姿が見えなくなり漸く脚を緩める
一体何を考えているのか
その意図が全く解らず、井上が怪訝な表情を浮かべていた
突然のソレに驚き、その場に立ち尽くす美保を放り置き
暫く走り続け、漸くその脚を止める
一体何を考えているのか
その意図が全く解らず、井上は怪訝な表情を浮かべていた
「俺、本当にあそこに居て大丈夫か?」
何やら厄介事に巻き込まれそうな気がして
考え直した方が良いのかも、と本気で思う
そんな事をあれやこれやと考えながら大学へと到着
授業をそれなりにこなしながら、漸く午前の講義が終わった頃には
悩んでいた事もすっかり忘れていた
「なぁ、真幸。そういやお前、居候始めたんだって?」
友人らと食堂にて談笑していると、徐にこの問い掛け
その話題を唐突に持ち出され、驚きに食べていた米を勢いよく噴き出してしまう
「うわっ!汚ぇな!」
「わ、悪い……」
「で?何だよ?どうかしたのか?」
動揺している様な井上の反応に友人は怪訝な顔
いっそ相談でもしてやろうかと
井上は改まって友人の方を見やり、事の成り行きを全て話してみた
「……その女、馬鹿なのか?」
友人の、歯に衣着せぬ言葉
はっきり言い過ぎるソレに思わず苦笑を浮かべて見せながらも
実の処、その意見には僅かばかり同意したいところなのだが
「……お前ね、はっきり言い過ぎだろ」
「本人居ないんだからいーだろ」
「そりゃまぁ、そうだけど……」
「でもまぁ、そんな訳の分からん話、断っちまうのが一番だと思うね」
「そう、だよな……」
やはり普通に考えればそうなのかもしれない、と
眉間に皺をよせながら考えこんでしまう
だとすればまた新たな住まいを探さなくてはならず
その手間を考えると溜息が止まらない
「……結構面倒なんだよな」

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