《MUMEI》
プロローグ
「あなたに与えられた期間は3日です。悔いの残らないように生きなさい」


 2012年2月29日1時12分47秒。
 俺の運命の日。

 その日、俺は屋上にいた。

 青い空に白い雲。鳥がピーチクパーチク鳴いている。

 『のどか』、そんな言葉がぴったりな日だった。

「いー天気だなぁ。風も気持ちいいし」

 思わず、俺の声もぼへーんとしてしまう。

(あ・・・、あの雲、綿菓子に似てるなぁ)

 ・・・思わず、俺の頭もぼへーんとしてしまう。

 片手には、そんなぼへーんとした俺に食べられずに、手で弄ばれているイチゴがあった。

 熟れた実は、少しの衝撃でも潰れそうだ。

「たーじまー!」

 下から、俺を呼ぶ声がした。

 しかも・・・、かなりの大音量で。

 フェンス越しにちらりと下をみると、昇降口前に知った顔があった。

(あそこから呼んだのか・・・)

 あいつの声を、一体何人の人が聞いたのか。

「こっ恥ずかしいヤツ・・・」

 『オレ、青春してます』という顔に、イラッときた。

(リア充めが・・・!)

 ・・・イラ立ち、倍増。

「何だー!?イチゴならやんねーぞ!」

 堪らず、俺がフェンスから身を乗り出した時だった。

ドンッ!

 俺の背中を押す音。
 地面から、遠ざかる感覚。


 世界が、反転した。


 俺の手から、イチゴが零れ落ちる。

「あ・・・っ」

 イチゴを掴もうと、手を伸ばす。

 しかし、その手はむなしく空振って、イチゴは、ついさっきまで俺がいた地面にたたきつけられた。

ぐちゅり

 俺の予想していた通り、熟れたイチゴはそのわずかな衝撃で潰れた。

 赤い果汁が、地面の色を染め変える。

 飛び散った果実は『血』を彷彿させた。

(縁起でもないなぁ・・・)

 呑気な俺の感想。

「うっ・・・、おわあぁぁぁぁぁ!!!!!」

 ふつり、と意識が途切れる音がした。

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