《MUMEI》
始まりT 「あんたの事について知りたい」
 ゆっくりと、視界が開けてくる。

 窮屈なほどの、澄んだ空気を感じた。

 目の前には・・・地球。

 俺の住んでる、青い星。
(『地球は青かった』ってホントなんだなぁ・・・)

 ・・・俺の思考は、これが常だったりする。

コツコツ

 誰かの足音が聞こえてきた。

 そして・・・、透き通った声。

「田島亮太(16)高2。彼女いない歴16年。趣味は―――」

「そこはマズイ!!!」

 いろいろブッ飛ばして、そんな言葉が口をついた。

 コツコツと響いていた足音が、ぴたりと止まる。

 静かに、声の主がこちらを振り返った。

「―――・・・っ」

 息を呑む。
 声にならない声が出た。

 それほど、彼女は美しかった。

 光を受け、煌びやかにたなびく白銀の髪。
 レースをあしらったシルクのワンピースからは、すらりとした足が垣間見えていた。

 そして・・・、俺を見詰める、濃灰色の二つの瞳。

 ぞわりと、肌が粟立った。

 ―――実物を見たことはない。
大体、そんなの現実ではありえない。
でも、まるで―――、

「・・・不細工」

 ・・・は?

「不細工。さすが、下等生物は違います」

 彼女の口から、罵詈雑言が吐き出される。

(不細工、不細工・・・)

 頭の中で反芻。

 ・・・誰が?

「言語の理解能力もない。さすが、下等生物は違います」

 彼女の濃灰色の瞳は、俺を見据えている。

 ・・・俺?

「あ、あんたなぁ・・・っ!」

「反論できますか?」

 ぴしゃりと言い放つ。

 顔には、嘲笑が浮かんでいた。

 でも、それでさえ、艶やかで、華麗で、秀麗で・・・。

 目を奪われ、惹きつけられる。

 ・・・もちろん、反論なんかできっこない。

「身の程は、分かっているようですね」

 その笑みに、またもや目を奪われた。

「・・・・・・・」

(人間は、ここまで人を惹きつけられるだろうか。)
 俺の中に生まれた、そんな疑問。

 現実味のない俺の仮説が、大きくなる。

 小さく挙手。

「・・・発言を許可します」

 白魚のような、しかしほとんど血色がない掌が、こちらに向けられる。

「・・・あんたの事について知りたい」

ここはどこか。
俺は屋上から落ちたんじゃないか。
あの地球はなんだetc・・・。

 聞きたいことは、山ほどある。

 けれど、俺はこの目の前の少女についての事を知りたい。

「―――・・・質問が曖昧ですね。
 でも、落ち着いている。・・・自殺した人とは思えない」

「は・・・?」

 彼女の言葉に、俺は目を丸くした。

 反芻をする必要もない。
 彼女は確かに『自殺』と言ったのだ。

『自殺』・・・自分で自分の命をたつこと。
       =自害⇔他殺

 目を丸くした俺を見た彼女が、訝しげに眉根を寄せる。

「・・・どうかしたんですか?」

 ・・・彼女には、質問と尋問の違いを教えた方がよさそうだ。

 たった9文字。

 それだけで、空気が冷え切った気がする。
 ぞくりと、背筋が凍った。

 ・・・いや、この世界(?)に気温なんてないのかも知れないけど。

「―――あのさ・・・、もし、俺が自殺じゃなかったら・・・?」

 馬鹿な質問をしたと思う。

 彼女に『もし』が、通じるか。

「・・・・・」

 彼女の表情は、変わらなかった。

 ただ、静かに自分の身体と同じくらいのカマを取り出す。

(どこから出てきたか、分かんなかったなぁ・・・)

 平凡な感想。

 でも、そのくらいが丁度いい。
 
 ・・・現実逃避には。

「まっ、待て待て待て!!!と、取り敢えず状況説明くらいは!!!
 それに・・・、あんたの事、まだ何も訊いてない・・・っ!」

 焦って、よく分からない言葉を口走る。

 あとで思い出したら、悶えるコトだろう。

 ・・・『あと』があるかは分からないけれど。

「・・・・・」

 少女は、俺の言葉に目を瞬かせた。

 そんなに、変なこと言ったかな・・・。

 自分が言った言葉を思い返す。

(それこそ、何言ってるか理解できなかったとか)

 あはははははは・・・、―――はぁ・・・。

 笑えない。

スッ

 唐突に少女が、カマをおろした。

「―――そのくらい、なら」

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