《MUMEI》

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突然現れて去っていった榊原のせいで、同好会の活動中もずっと上の空だった。

何も知らない憂は、いつも通り取っておきの怪談話を得意気に幾つか披露していたが、はっきり言って俺はそれどころじゃない。


『犬神』


人間が生み出した祟り神。凶暴で残忍なバケモノ。

しかも、この界隈で騒ぎになっている女子学生の失踪も、この犬神が元凶になっているという曰く付きだ。


そんなバケモノの調伏を請け負った榊原に、まんまと弱みを握られて巻き込まれてしまった。したり顔の榊原が脳裏をよぎる。


ちくしょう。

口の中だけで毒づく。何で俺がそんなことに。アイツと関わるといつもこうだ。最後には絶対俺が割を食う。


苛立ちをため息に変えて吐き出した時、不意に憂が口を開いた。

「どうかしたの?」

憂へ視線を流すと、彼女は不機嫌そうな顔つきで俺を見ていた。

「あなた、さっきから全然集中していないわ。わたしの話も聞いていないみたいだし」

当然である。
かといって、榊原の話を彼女にすることは出来ないので適当に誤魔化した。

「別にいつもと変わらないよ」

「嘘、イライラしてるじゃない。何かあったの?」

「何でもないって」

「何でもないって顔じゃないわ。何か隠してるでしょう?」

ていうか何だこの会話は。断片的に聞いたら、ただの痴話喧嘩みたいだ。

それよりも、いつもはトンチンカンなのに、今日に限ってやたらと勘が鋭い彼女に少し戸惑ったが、まさか真実を言えるはずもない。

気のせいだろ、と無難に言った言葉は、そうかしら?と無難に流され、ようやくそこで会話は終わった。



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