《MUMEI》
女医
診察室から出た私は、さらに奥へ連れて行かれた。

さっき気づいたのだが、この建物には窓がなかった。
きっと地下なんだろう、と私はすぐに理解した。


そして、そんなことを考えていると男が立ち止まった。

そこには、錆び付いた灰色の扉が立っていた。


(!?)


なぜかわからないが、その時、私の身体に電撃が走るような感覚がよぎった。


そして男が、扉の横にあった小さなテレビの画面のようなものに、ID カードのようなものをかざすと、鈍い音を立てて扉が開いた。


そこは、さっきの診察室と同じような部屋だった。

そこには若い白衣を着た女がイスに座っていた。

そして私を見て、

「あなたが富田いのりちゃんね、そこに座って。」


そう言って、男に、検査で異常はなかったのよね、と言って私を見た。


「じゃあ、さっそくお注射しましょうか。ちょっとちくっとするけど、大丈夫よね?高校生だものね。」

「ぇ、ぁ、はい・・・大丈夫、ですけど、」


それを聞いた女医はニコリとして注射の用意を始めた。


私は、何の注射なのか分からなかったが、その疑問を聞けずに、黙って注射を受けていた。


「はい、終わったわよ。」


そう言って、女医はまたニコリと笑った。


「さあ、もういいわよ、少し怖かったかしら?」

そう言って、今度はくすくすと馬鹿にするかのように笑った。


そして私はまた男に連れられて部屋を出た。


私はその時、少し怖かった。
不安と恐怖、この時、私に期待はなかった。


あの夢を、思い出して。

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