《MUMEI》
一日目@〜夏希〜
「しょ、聖ぉぉぉぉ!!」
夏希がその場に崩れる。
「夏希、ここも危ない。行こう。聖達なら大丈夫。きっと俺達のところに戻ってくる。」
クラスメートの谷口がいった。
「・・・ああ。そうだよ・・・な?」
「もちろん。あいつらを暖かく迎えるためにも、俺達は生きなきゃいけないんだ。」
「分かった。行こう。聖、必ず生き延びろよっ」
大声でそう叫びクラスを後にした。
クラスの全員が教室を出て三階へと走る。
その途中で夏希の足が止まった。
「・・・ガスの匂い?」
その横を見ると、家庭科室の火が付きっぱなしだった。
「みんな、爆発するぞ!!急げ!!」
ふと転んだ少女の姿が夏希の目に映った。
急いで立とうとしている。彼女が最後だ。
しかし、もう家庭科室がいつ爆発してもおかしくない。
少女が立ち上がると同時に思いっ切り突き飛ばした。直後、家庭科室が轟音とともに爆発した。
「痛ッ。」少女が呻く。
「大丈夫か?」夏希が手を差し出す。
「何?私、助けてくれなんて頼んでないけど。」
そう言いながら、彼女は自分で立ち上がる。
「あんた私のこと知ってて突き飛ばしたわけ?」
「いや。」
「え、私のこと知らないの?」
「ああ。」
「信じらんない。私、如月(きさらぎ)風帆(かほ)、モデルやってるの。」
「へ〜。」
「・・・本当に知らないのね。」
「ああ。それより早く逃げね〜と。行くぞ。」
「あんたと一緒に?冗談でしょ?私一人でいくわよ」
「・・・でも助けが必要なんじゃないのか?ほらっその足」
風帆は黒血のよった足のことを言っているのだと気付くと慌てて手で隠した。
「何処見てんのよ」
「!!。あぶねぇっ!」
夏希は勢いよく風帆を自分の方へ引っ張り込んだ。
「変態、何、急に発情してるわけこんな時にっ。…えっ!」
風帆は後ろを振り向き一瞬絶句した。
天井が落っこちて逃げ道が失われたからだ。
もときた道を辿って校舎端の非常階段を使うにも家庭科室から燃え盛る火の手が上がってどう考えても通れそうにないし、例え通れたとしても夏希のクラスのところで大きな亀裂が入り床が抜け落ち、とても通れたもんじゃない。
「ちょ、ちょっとどうしてくれるのよ!!逃げられなくなっちゃったじゃない。何とかしなさいよ。私はこんなところで・・・それにあんたとなんか死にたくないわよ。」
夏希は立ち上がり辺りを見渡した。
「いや、俺たちは生き延びる。」
そう言って夏希はエレベーターを見つめた。
「何考えてんの?動かないに決まってるじゃない。」
「エレベーターの中にある非常はしごを使うんだ。」
その言葉を聞くと風帆は落ち着きを取り戻し言った。
「なるほど。それで?どっちに行く気?」
「三階に行けば津波の心配もいらないだろ。」
「・・・どうだか。」
「何?」
「この学校の三階、及びこの学校の屋上の高さがおよそ25m。さっきの地震の規模が推定で少なくともM9.5くらいね。100年前の東北地方太平洋沖地震はM9.0。その時に観測された最大の津波の高さがおよそ20m。東京湾からここまではくぼんだ地形。」
「だから?」
「東北地方太平洋沖地震の津波の場合、堤防や山地によって津波の高さが減った。けど、今回の地震はそれよりも強い上に大きな堤防も築かれていないし、山地がなく、地形がくぼんでいる。となればここを襲う津波の高さは少なくても30 m以上はある超巨大大津波。学校なんて余裕で超えるわよ。ここは学校の外に出て少しでも遠くて高いところに行くのが一番の得策だと思うど・・・。」
「お前・・・。」
「か、勘違いしないでよ。私が助かるために言ってるんだから。」
そう言って風帆は顔を背ける。
「よし、ここはお前の言うとおりにしよう。」
「けど、どうやって扉を開ける気?」
「・・・。素手しかねーだろ。」
夏希はエレベーターの扉の両側を掴んだ。
「よいしょー!!」
扉は一人が通れるくらい開いた。

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