《MUMEI》
僕らの絆(過去形)。
「あははは。久しゅうな。《俺人格》」
「そんな事よりそのおにぎりをヨコセ!!」
「いやいや。これワイのやし」
緋門は『俺』を冷静に突き放した。
「あ。じゃあこれならやるわ」
緋門は鞄からスティック状の菓子、ポッキーを取り出した。
この時『僕』は思った。そんなものでお腹は膨れるはずがない。『俺』が満足するはずがない。
「オウ。いいもん持ってんじゃねえか」
いいのそれ!? 満足出来るの『俺』!?
何故か『僕』と『俺』とで微妙な齟齬が生じる。
「……と、まぁ。ありがとう」
また何の前ぶれもなく、《僕人格》に戻った。
ここでいつの間にか、学校に到着していた。
そして不意に緋門が「おお!!」と大声を上げながら校舎側を指差した。……耳が痛い。
「神名見てみい! 我が学園の美少女! 逆間久美《さかさま くみ》ちゃんや!」
枝毛など無さそうなきれいな薄く茶色の混ざった黒髪を後頭部に束ね、歩いていると彼女の笑顔がポニーテールにも伝わっていっているかのように踊っている。背筋がスラッとしていて姿勢が良く、そのおかげか出ている所や引っ込んでいる所がより引き立っているようにも思える。緋門曰く、かなりの巨乳だと言う。おまけに親父さんがどっか有名な会社の社長。つまりご令嬢ということになる。
「うん。そうだね」
「なんやねん。反応薄いなー」
何を隠そう。逆間久美、この子も小学生の頃、仲の良かった5人組の1人。
昔も可愛くてモテていたが、まさかここまで美人になるなんて思いもしなかった。しかもたった2年で。
今では手の届かない友達だ。
なんて事を考えていたら、もう教室に着いた。
僕のクラスには例の4人はいない。
中学生になってから全員バラバラになった。2年に上がる頃にクラス替えがあったにも関わらず結局は全員バラバラ。6クラスしかないのに全員バラバラ。奇跡なのか何なのか。
ちなみに、まだ紹介していない2人を紹介しよう。
佐久間新斗《さくま あらと》。僕らの中の頭脳と言ったところだ。それとストッパーとも言う。ちなみに生徒会副会長。そして、偉い警察官の息子。これもまた手の届かない友達だ。
天草美鶴《あまくさ みつる》。男っぽい名前でもあるけど、れっきとした女の子。小柄な幼児体形で天真爛漫(悪く言えば自分勝手)。噂では最近彼氏と別れたらしい。
……というか、ここで紹介して何になる。人の見方で変わってくるのだから。
全てを紹介は出来ないけど、これから僕ら5人はとある事件に巻き込まれてしまう。
前置きはこれまでにして、僕ら5人の絆のお話をどうか聞いて欲しい。

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