《MUMEI》

「七人ミサキは、いつも七人でいる怨霊。そう、丁度今のあたし達みたいにね」
 床の間の前で春歌が、ぐるりと皆を見渡し微笑む。
 彼女が七人目の怪談の語り手である。
 効果を狙ったのだろう。皐月には充分に効いた。
「隆也が先刻言ったけど、彼らは海に出る。舟幽霊は船を沈没させて、生きている者を仲間にしようとするけど、七人ミサキの場合も大体そう」
 怖いのか、寒いのか、わからなかったが、とにかく皐月は、自分の体をかき抱いて話を聞いていた。
 皆、黙って春歌のライターの炎に浮かび上がる顔を見つめている。闇の中、彼女の容貌は、凄絶な程に美しいにも関わらず、恐ろしくもあった。
 他の者は、屋敷にあったろうそくで話をしたのだが、春歌は自分の番になった時、ろうそくの炎を吹き消して、家内を真っ暗にしたのである。
 彼女は眼前で揺らめく炎の中、話し始めた。
「なぜ、七人だかわかる?七っていうのは、最も完全だと言われる数字何だけど、不吉な数字だとも言われるの。七人ミサキは必ず七人で現れる。この七人は海で溺れたりして、成仏できない怨霊なんだって」
 皐月は、途中で疑問に思うことがあった。
「怨霊ってことは、人に害を及ぼすんですよね。舟幽霊と一緒なら、つまり仲間にする」
 出来損ないの車座は、春歌を核とすると右隣に博田がいて、皐月。順にショートの舞、潰れた二枚目の白川、ロングの真紀、背の高い北野、となっていた。
 皐月の疑問は、春歌の左隣の位置の北野が、先に口にした。
「じゃあ、七人ミサキはどうなるんです?誰かを仲間にしたら、完全な数の七が崩れてしまう」
 八人ミサキになってしまうのだろうか。
 だが、そうやって意味もなく、どんどん人数が増えていくものでいいのか。
 皐月は、春歌の話の続きを聞きたいような聞きたくないような、複雑な心持ちであった。怖いけれども、見てみたい、聞きたい、という好奇心には勝てない。
「七人ミサキは、七人以上になることはないの」
 ごくり、誰かが、喉を鳴らすのが聞こえてきた。
 或いは、皐月が唾を飲み込んだのかもしれない。

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