《MUMEI》 温泉。そして覗き。「んほ〜。生き返んな〜! 温泉ってのはよ〜!」 タオルをたたんだものを額にのせ、温泉に深く浸かる響介。 「あ、有り得ない……。何故家に温泉が……!?」 隅っこでプルプルと震えている新斗。 そういえば、メガネを外す新斗を見たのはこれで初めてかもしれない。 「あはは〜! すっご〜い! 泳げる〜!」 温泉を泳ぐ僕。 当時の僕は……まだまだ子供の部分が多すぎる。 その時、隣の囲いからミクちゃん達の声が聞こえた。 『久美ちゃん家のお風呂でかいね―! 何でこんなにでかいの―?』 この声は多分、美鶴の声。 『何でだろ? 多分、お父さんの趣味かな?』 この声はミクちゃんだ。 いや、趣味とは違うと思う。 『っていうか久美ちゃん。お風呂もだけど、ここもデッカいね〜♪』 『きゃっ! どこ触ってるの! くすぐったいってば!』 このやり取りの声を殆ど遮る事なく聞こえてきている。 「……おい…。それって、やっぱり『お』から始まるやつだよな?」 「……うん。そうだろうけど……」 「それ以外考えられんな……」 当時はあの新斗さえ、この会話に参加していたとは……。 「覗くか!」 響介は片腕ガッツポーズで立ち上がった。 「や…止めた方が良いと思うな〜」 「大丈夫だ、オレに考えがある」 僕らは首を傾げた。 こんな事をして、今は心の底から後悔している。 「いやいやいや! 無理でしょそれは!」 「大丈夫だ、登れ!」 僕らは裸のまま木に登り、枝を伝って女湯を覗くという無謀な響介の案にのってしまった。 まず木登りの時点でアウトな僕。 それでも頑張り、何とか登ることには成功した。 新斗はメガネがないと意味がないという事で断念。 枝を伝って女湯へたどり着くことにも成功し、僕らは一斉に目を凝らした。 しかし………見えない。というかいない。 「あれ? 上がっちまったかな?」 身を寄り出しながら響介は目を凝らした。 その時、響介の顎に何かが命中し、「げべらっ!?」謎の言葉を残し、バランスを崩して響介は温泉へ落下した。 「え!? 響介君!?」 真下を見ると、体にバスタオル一枚を巻いているミクちゃんと美鶴。しかもエアーガンを持っていた。 前へ |次へ |
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