《MUMEI》
誘拐。
気が付けば、ベッドの上だった。
ここがどこだかわからない。
頭がやけにズキズキと痛む。
「あ…カオルン。気が付いたの…」
「……美鶴ちゃん? 何で僕寝てるの?」
「覚えてないの?」
僕は上下に首を振った。
何だっけ。何が……。
そして僕は、お風呂での事、ミクちゃんが寝込んで、僕が謝りに行った時のことを思い出した。
僕は顔を真っ赤にさせ、言葉を失った。
その時、襖からノックの音が聞こえた。
襖が開き、入ってきたのは刑事の制服を着た人たちだ。
「…刑事さん? 何でここに? まさか僕を捕まえに!?」
覗きは罪だったのか! いや、当たり前だけども!
「違うよカオルン。刑事さん達はカオルンに話があるの」
「神名薫くん。君に聞きたい事があるんだ」
「な、なんですか?」
「犯人の顔を見たかい?」
「え?」
犯人?何を言っているんだこの人は。
「何人組だった?」
「あの、質問の意味がちょっと……」
頭を少し掻いた。その際に、頭に巻かれている包帯に初めて気付いた。
僕はこんなケガをした覚えがない。
「可哀想だが、記憶が混乱しているらしい……」
なんだ、一体何があったんだ。
僕は頭の痛みと胸騒ぎがより一層に激しくなった。
そして、ズキッと一瞬頭の痛みが強まり、頭を抱えた。


『…え…? 今のって……』
『知らないの? キス、て言うやつだよ』
『それは知ってるけども! 何で僕に………?』
『私はあんな中途半端なファーストキスが嫌だったの!いいじゃない、やり直しても……』
い、今のが……キスの味。
『はっ、恥ずかしいからもう部屋を出るっ!』
『は……はい!』
僕は覚束ない足どりで部屋を出た。
その直後だった。
『きゃっ!! 何!? やめて!!』
この声が襖の奥から聞こえた。
僕は襖を開け、中に入った。
目の前には、誘拐をしている真っ最中だった。
黒い服を着て、顔をサングラスやマスクで顔を隠している男が三人。
ミクちゃんはもう完全に気絶していて、抱えられているのにピクリとも動かない。
『ミクちゃん!!』
僕は足が震えていて、思うように動けない。動け! 動いてくれ!
『このガキはどうする?』
『ほっとけ』
ダメだ。行かせちゃダメだ。
僕は勇気を振り絞り、ミクちゃんを抱えている男に習い事の空手の正拳突きをした。
腹部に当たり、手応えはあった。
『はっ、所詮ガキだな』
後ろから棍棒みたいので頭を殴られ、僕は倒れた。
『―――へ行くぞ』
意識が朦朧とする中、それだけを聞いて気絶した。

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