《MUMEI》
通信。
1時間が経ってしまった。
どこにもいない。
もう僕が走っても行けないような距離になってもおかしくない時間が過ぎてしまっている。
……身の代金はどうなったんだろう。まだ渡してはいないのだろうか。
走っていると、ポケットからザザザッと異様な音がした。
出てきた物はトランシーバー。
美鶴から借りた物だ。
「……えっと、このボタンかな?」
赤いボタンをポチッと押した。

『……あ、ああ…。聞こ…る…か……おい…』

雑音が酷くて途切れ途切れでしか聞こえない。
「あーあー。何も聞こえないよー。どうぞー」

『なに……も……聞こ……ない……のか』

「はいはい。何も聞こえないよー。どうぞー」
いつまでこんなやり取りを続けるのだろうか。鬱陶しいからもう切ってしまおうか。

『電……ぱ………。ア………テナ……』

「え? アンテナ?」
この先っぽのかな?
僕はアンテナらしき物を伸ばした。

『聞こえてるか薫〜〜〜〜っ!!!!』

「わあっ!!」
耳元にほぼ零距離からのクリアーな響介の大声。
耳に突き刺さるような声だった。
「響介くん!?」
『お、ようやく繋がった繋がった。お前今どこにいんだよ!』
まぎれもない響介の声だ。
だけど……ここ、どこだろう……。
人影の少ない場所を夢中になって探してたら、迷子になっちゃった?
『ん? なんだ美鶴。おお、薫。お前今結構離れたとこにいんだな』
「ねえ待って! 何で僕の居場所がわかるの!? 僕に何か取り付けたの!?」
『そんなことよりな。目の前の十字路を右に曲がれば、確かお前の知っている道に』
「無視!? とりあえず美鶴ちゃんに代わってくれないかな!?」
って、こんな事してる場合じゃなかった。
「で、合流するんだよね? どこ?」
『とりあえず小学校に集合な』
「うん。わかった」
…とはいえ、もう……スタミナが……。
『疲れてんだろ? ちょっと待ってろ。発信機を元に新斗が自転車で向かってっから』
「やっぱり僕のどっかに発信機付けたんだね!」
認めた、認めたよこの人!
しばらく歩いていると、本当に自転車に乗った新斗が来た。
「全く…、何で僕が…」と、文句を言いながら僕を後ろに乗せて小学校へ向かった。

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