《MUMEI》

そう……彼女は今朝のニュースで出ていた、あの『井下和美《かずみ》』本人かどうかということだ。

確かに彼女自身『いのしたかずみ』と言っていたし、その知人(?)も事故ったのは彼女だと思い込んで話していた。

しかし彼女自身の名前を、ただの一度も漢字で見てはいない。それに同姓同名の可能性だってある。

教室に向かっていた足がピタリと止まり、不意に近くの窓から正門を見下ろしていた。

「やっぱ、いないよな……」

彼女の姿を捜《さが》してしまうが、既《すで》にその姿はどこにもなく、落胆する。

授業も始まっているため辺りは妙に静かだ。

自分の軽率な行動や発言で、彼女を傷付けてしまったかもしれない。

しばらく窓の外を見ながら考える。

後悔している自分に気付き、驚いてしまう。

今からでも……会いに行くべきだろうか。

しかし会いに行けば、さらに後悔するハメになるかもしれない。可能性としては十二分にあるだろう。

そう思うと、行くべきではないと警鐘《けいしょう》を鳴らす自分もいる。

こういう場合……他の奴ならどうするんだ……? 逃げるか? それとも挑むのか?

充《みつる》……、裕紀《ゆうき》……。オマエ達ならどうするっ!?

……オレは…………

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