《MUMEI》

 皐月は、従兄弟の四十九日のためにこの町にやって来た。彼は漁に出たまま帰らない。叔父は諦めてしまったが、皐月は納得することができなかった。
 けれども彼女には、どうすることもできない。
 皐月は一人、荒れ狂う波の海を長い間眺めていた。 本当に、この海のどこかに彼はいるのだろうか。戻って来ないのは、七人ミサキになってしまったからではないのだろうか。
 海辺の町で出会った美しい女の話は、皐月を妄想の世界へと連れ込んだ。
 炎から始められた恐ろしい話は、彼女を絡めとり、呑み込んだまま放さない。
 皐月は小刻みに震える右腕を押さえつけていた。
 書物を調べると、七人ミサキにとり憑かれると、全身に冷たい水を被ったように寒くなって、震えが止まらなくなるとある。
 七人ミサキになったのは、従兄弟ではなくて自分だったのだろうか。
 サングラスをした男の、自分を見る目つきは、まるで化け物を見るかのようだった。
 ならば、従兄弟はどこへ行ってしまったのだろう。
 あの晩、確かに屋敷には七人の人間がいた。
 屋敷へ最後に足を踏み入れたのは皐月であった。
 もしも、彼があの場所にいたのなら。彼女がやって来たことによって、七という完全数の輪から抜け出ることができたなら…‥
 皐月は、先刻から震えの止まらない自身の体をきつく、かき抱いていた。
 きっと、従兄弟は成仏することができたのだ。



 だから、七人ミサキは、永遠に七人のまま。


       終幕

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