《MUMEI》
思い出す予兆。
「……じゃあどこだと思うんだ?」
響介が不満げに新斗に聞いた。
「そうだな。神名が見過ごしたっていうのも可能性としては高いが、僕はまだ探していない別の場所と思う」
「……ならもう行かねえか? ここで話し合ってる時間が勿体なくね?」
考えるより体を動かす派の響介はもう話し合いにうんざりしている。
「これだから体育会系は……。本当に何も考えていないな。目的地を決めなきゃどうする」
慎重派の新斗は響介を罵倒する。
「……もう考えるのめんどくさっ」
ミクちゃんの命運がかかっているんだよ!? みんなマイペースだね!?
「なんかさ。いろいろあんじゃねえの?実は灯台もと暗しで、久美の倉庫だったりさ。後は他の誰かん家の倉庫だったりさ」
「そんな所はもうとっくに調べている」
何だか響介に対して、新斗が冷たい。
「じゃあさじゃあさ。久美ん家には実は秘密の地下室があって、そん中とかは!? ありそうじゃね!?」
新斗の嫌いなバカな発言といい加減さに新斗はキレた。
「…君は今どういう状況かわかっているのか!? 君は病院にでも行っててくれないか! 間違えるなよ!? 精神科にだ!」
さすがの響介も驚いたようだ。
―――『病院』―――……。
急に頭がごちゃごちゃと渦巻いた。
何かを思い出す予兆のような、気持ち悪い感じだ。
思い出せ。あの誘拐現場での、あの一言を……!

『ガキなんてのはよ。上から頭を抑えちまえば怯えんだよ』

違う。確かに言っていたような気もした。ただし、いつ言っていたかは不明だ。
もっと思い出せ。誘拐犯の中ではリーダー的な立ち位置にいた誘拐犯の台詞を……!! だけどあまり頭の良くない誘拐犯の台詞を………!!


『例の廃病院へ行くぞ』


――――…思い出した。
気がつけば、響介と新斗の言い争いはエスカレートし、ついには口喧嘩レベルへ発展していた。まるで子供の喧嘩だ。
美鶴に止めるよう頼み込んだところ、ポケットから機械的な何かを取り出し、「弱でもどれだけの威力なんだろ、これ」と呟きながら近づき、その機械的な何かを響介へ当てた。
パリッ
何かが一瞬とてもイヤな音がし、次の瞬間には響介がうつ伏せで倒れていた。
あれ……? それって…スタンガン……?
「……天草。防犯グッズとして身につけるのはわかるんだが……、さすがにその威力はマズい気がする……」
さっきの呟きから察すると、弱でも人を気絶程なのか。

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