《MUMEI》 誘拐犯。その2「……ようするにマヒしてるって言いてえのかよ」 長パーマの人は少しイライラしている。 「そんな感じだな」 キッパリと言った。この人は相手の顔を見ていないんじゃないかな? 「おい、1億円と言えば、アタッシュケースがいくつ必要だと思う?」 スキンヘッドの人が言った。 「知らんがな」 考える気がないのかな。 「……細かい数は俺も知らんが、とにかくたくさんだ」 「マジで!? スッゲー!」 頭の良さそうに見えたスキンヘッドの人はそうでもなかった。まあ第一印象からずっと一緒だなんて特殊だよね。 何より一番すごいのは、この人達の会話だね。緊張感がしない。 私は本当にこの人にさらわれてるのかな? 「……ん? なんだガキ。起きてやがったのか?」 呼ばれてビックリはしたものの、さっきよりはまだ大丈夫だった。 「ご……、ごめんなさい……」 私は謝ることしか出来ない。 「……ふん」 私の事を気に入らないのか、すぐに目を逸らし、舌打ちをした。 「なんだ、トランプしてやがったのか。オレも混ぜろ」 「さっき終わりにしたばっかだっつの」 言いながらも、バラバラになったトランプをかき集めていた。 しばらくして。 なぜかお酒が入っていた。 馬鹿笑いする2人に、ただただ本を読んでいる1人。 早く……助けに来てくれないかな……。 みんなの顔が頭をよぎった。無理だよ。みんな小学生だもん。 「ちっくしょー…。また負けかよー」 「へへっ! この酒は頂いた!」 どうやら長パーマの人が負けたみたいだ。あれって……ポーカー? 「ちっ。ポーカーだけは強えーなー。目黒は」 …………あれ? 「品川が弱えだけだっつの」 …もしかして、名前を呼び合ってる? 「おいアキバァ――! おめえも混ざれやあ!」 アキバと呼ばれたスキンヘッドの人は、ゆっくりと本を綴じた。 「略すな! ワタシは秋葉原だ! いい加減覚えてほしいものだな! 品川に目黒!」 ………全員の名字を覚えてしまった……。 あの長パーマが品川。 チャラ金髪が目黒。 スキンヘッドがアキバ…もとい、秋葉原。 やっぱりこの人達、あまり頭が良くないみたい。 「……何、名前を叫んでんだよ」 品川が言った。 私は過剰に反応してしまった。 「……聞いたのか? ガキ」 私は痙攣したように体が震えた。 「い……、いい…え。何も……聞いてなんか……」 前へ |次へ |
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