《MUMEI》 返り討ち。行った。 行ってしまった。 「ミクちゃんを……返せ!!」 震えた声の精一杯の大声が手術室を響かせる。 僕は瞬時に周りを見回した。 隅には男2人がカードゲームをしていて、その反対の隅には、ハゲの男が本を読んでいた。 中央には、大きな上着を被せたミクちゃん。 「薫くん!?」 ミクちゃんが叫ぶ。 「あぁ? ……なんだ、あの時のガキじゃねえか」 思ったよりも、誘拐犯はノーリアクション。 金髪でチャラそうな男が近付き、頭を撫でた。 「友達を助けたくてここまで来たのか。すげえな、お前」 撫でているようで、違う。これは僕を押さえ付けている。 悔しいが、子供は上から押さえ付けられると、何も出来ない。 僕は恐怖で涙が出て来た。 「ははっ! 震えてんじゃん」 「少し懲らしめて、外へ棄てろよ」 長いパーマな男が言った。 「わかってんよ」 その瞬間、頭をガシッと固定させ、僕の腹部に拳を叩き込んだ。 「う゛ぇっ」 急な攻撃に、僕は反応出来なかった。 視界が暗くなる。 腹部を抑え、膝を付く。 そして、嘔吐した。 「うわっ、汚ねえな」 「薫くん!」 ミクちゃんが僕に寄ろうと、台から降りる。 「動くな。台に戻るんだ」 今まで本を読んでいて、動いていなかったハゲの男が言った。 ミクちゃんは静かに戻って行った。 逆らえないのは、当たり前だ。 僕は助けに来たはずなのに、情けない。 「ぼ……僕が…、ミク……ちゃ…ん……を……」 「助けらんねえよ」 顔面に左膝を受けた。 その勢いで僕は仰向けに倒れた。 床が冷たい。 口に血の味がする。 切ったのかな。 ものすごく気持ちが悪い。 痛い。 道場で殴られた時よりも、痛い。 加減なんかなく、容赦ない一撃。 そこが道場で違うところだ。 立たなきゃ。 僕が立たなきゃ、ミクちゃんを助けられない。 助けなきゃ。 ミクちゃん………。 僕は意識が遠くなった。 このまま、気絶した。 前へ |次へ |
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