《MUMEI》
『俺』。
覚醒した。
とはいえ、急に強くなったとかじゃない。
目が覚めた、という意味だ。
でも、ここはどこだ?
なんだか、湖みたいな、広大な海のような場所にいる。
夢?
イメージ?
幻覚?
幻想?
っていうか、湖の上に立ってない!?
すごいな僕。
って、そんな事考えてる場合じゃないでしょ、僕。
「ここ、どこなんだ?」
呟く僕。
「神名薫の世界だよ」
声。
なんだか自分に近い声。
「……誰?」
周りを見回した。
何もない。
広大な海だ。
足に違和感があった。
ひどく怖かった。
恐る恐る下を向いた。
僕の足に手がしがみついていた。
「うわああああああ!!! 手があああ!!!?」
僕は驚いて倒れた。
その手は容赦なく僕を海へ引きずり込んでくる。
「く…っ、この!!」
何者かの手に思い切り殴った。
「ぐあっ!?」
僕の左手に殴られたような、痛みが走った。
「なんだ……これ!?」
僕は為す術なく海へ引きずり込まれた。
溺れる。
息が……!
僕は上へ上へと、必死にもがく。
「な〜に、やってんだ? おい」
もがく僕を見下ろす人は……、限りなく僕の顔に近い顔………というか、僕!?
とりあえず僕は上へともがく。
引きずり込まれた時に息を大分無駄にしてしまった。
もう保たないかもしれない。
それなのに急に顔を殴られた。自分の顔をしている奴に殴られるなんて変な気分だ。
「何するんだよ、君!」
自分に君って言うのも、変な気分だ。
「息、できたか?」
そう聞いてきた。
そういえば、殴られた時から意識をしていなかった。
「君、一体誰なんだ? 僕の世界って何なんだ?」
海の中で浮遊していて、何だか楽しい。
「なに楽しくなってんだよ、おめえ」
「なっ!? 何で僕の心が!?」
「俺はお前なんだ。当たり前だろ?」
「……!? 君が………僕!?」
ワケがわからない。
「そんな細けえ事なんか気にすんなよ。メンドいから」
「君は僕と違っていい加減だね!?」
……自分がいい加減ではないなんて自分から公言はできないけど。
「で、君が何で僕をここに呼んだんだ? ……ん? ここは喚んだって言うべきなのかな?」
「だから細けえって、アホ」
自分にアホって言われるのは、とても腹が立つ。
「まァいいさ。俺がおめえを呼んだ理由ってのはよ。おめえがフヌケだからだ」
僕が僕に指を差しながら言った。
…ややこしいな。『俺』と呼ぶ事にした。
「…フヌケ…? 僕がか…?」

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