《MUMEI》

『ねぇ、先生?』


『ん?何か質問?』

笑みを浮かべて声の
主、慶太(けいた)
君を見た。


『これ、な〜んだ』


週三日の家庭教師の
バイト中に教え子が
俺に向かって携帯の
画面を眼前に突き付
けた。


『………え?えぇっ
っ?』


『ね?良く撮れてる
でしょ?』


慶太くんは、天使の
ような無邪気な微笑
みで、見せびらかす
様に携帯をひらひら
させた。


奪おうと、咄嗟に携
帯に手が伸びた。が
あと少しの距離の所
で虚しく空を切る俺
の手。


画面の中に写るのは
俺と恋人のキスショ
ット。二人の顔が鮮
明に写し撮られてい
る。


こんな写メをネット
にでも散蒔かれたら
俺達は終わりだ、い
や学生の俺はまだ良
い。しかし恋人の淳
弥(あつや)は社会
人、それも昨今の就
職難の折、ようやく
入れた会社で、新人
という弱い立場だ。


何とかしなければ…
そう決意した俺を見
透かす様に慶太くん
が言葉を発した。

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