《MUMEI》
自分自身と喧嘩。
「お前はフヌケだ。ミクちゃんを簡単に誘拐されちまうし、見つけるのにも苦労した。挙げ句の果てには何だこれ、二発でノックダウンだ。情けねえったらねえぜ」
『俺』は笑いながら言った。
「僕だって……、がんばったんだ……!!」
「がんばったって、救えなきゃ意味なんかねえだ、ろ!!」
『俺』は一瞬で僕に近付き、腹部を抉るように突き出した。
僕はかろうじて、両手をクロスさせ、防御することに成功する。
だが、防御したにも関わらず、僕を海の外へと吹き飛ばした。
「くうぅ……っ!?」
場は空になり、じたばたする僕。
下を見ると、『俺』はもういない。
僕よりも上空に、『俺』はいた。
飛翔した『俺』の右足は頭よりも高く上げており、落下プラス自身の力を上乗せした形で僕の頭部に振り下ろした。
僕はまともに受け、海へ叩き付けられた。
「すげえだろ? 夢の世界ってのは、こんな事だって出来んだ」
『俺』は空中に立ったままだ。
「……痛ぅ…」
海がまるで地面のように硬い。何故か立っていられる。
僕は踏ん張って、ヨロヨロになりながらも立ち上がった。
「……僕の世界だろ? 何で『俺』がそんな事出来るのさ…」
「わっかんねえ奴だな。だから俺も『お前』なんだ。だから意思疎通だって出来るんだよ。だから神名薫の世界で、俺が好き放題出来るんだよ」
……僕には『俺』の考えなんかわかんないのに……。
「……まァそうだろうな」
「僕の考えを読んで、そのまま会話に繋げないでほしいんだけど」
「別にいいじゃねえか」
……くっ。こいつ………。
「それじゃ、本題に入るぜ」
「本題? 何言ってるのさ。ちんたらしてないで、さっさと戻してくれないかな」
イライラしているんだ、こっちは。
「お前にとっても悪い話じゃないと思うがな。簡単な話だ。『お前』は引っ込んで、『俺』に体を預けろってだけだ」
「……なんだって……?」
それってつまり……、こいつを僕の体で自由にさせるってことか……?
「その通りだ。わかってんじゃねえか」
笑いながら、言った。
「ふざけるな! お前を自由になんて……、させないよ!」
僕が考えたように世界が好き放題出来るって言うのなら、やってやる。
海を蹴り、『俺』まで飛翔し、拳を突き出した。
「うお、危ねえ」
軽く身を反らしただけで、かわされる。
「『お前』がやるってんなら、やってやろうじゃん!」
『俺』は笑いながら僕の腹部を膝で蹴り上げる。
「わかんねえのか? お前じゃ誘拐犯には勝てねえんだよ。俺なら、勝てるね」
「うる……ッさい! 次は……負けないっ!!」

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