《MUMEI》

「マネージャーと住んでるって、本当だったんだね。」

アレックスは私を見るなり、オーバーリアクションで構えた。


「食事は?今ならカレーがあるよ。」

彼は自炊を積極的にしてくれる。
熱心に私からレシピを聞き出すのだ。


「kawaii?」

アレックスの間違った日本語には思わずつられて笑ってしまう。


「オイシイ、だよ。おー、いー、しー、いー」

彼はゆっくりと口を作って、アレックスにDeliciousを教えている。
カレーを食べる俳優に、違和感を覚えた。


「オイシー!」

スプーンで掬って嬉しそうに頬張る。


「良かった。」

私と息子と彼と三人で、胸を撫で下ろす。
この四人で食卓を囲むのは珍妙だ。


「子供の頃は一人でレトルト食ばっかりだったんだけど、家族でご飯を食べるのって、こんなかんじなんだね。」

天性のムードメーカーのアレックス・ブラウンの意外な一面だ。


「アレックスは、よくご飯に大勢で誘ってくれるからね。
年齢や役職で壁を作らない楽しい会食だってエリックが言っていたよ。」

エリックとアレックスは、旧知の仲で、エリックは連続ドラマのアクション俳優として、または共演した子持ちの女優と噂されてからセレブの仲間入りをした。


「……エリックめ。」


「アレックスってエリックには子供扱いされてるよね。なんだか、兄弟みたいでそういうのいいな。
俺は次の台詞覚えで頭いっぱいだし、アレックスみたいに楽しくお酒を嗜めないから遠慮してしまうけど…きっと二人の掛け合いは楽しいだろうね。」

さりげなく、アレックスの素顔を暴いてゆく彼には感心する。

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