《MUMEI》

 「……頭、痛ぇ」
翌日、晴天の朝
失ってしまったらしい意識を漸く取り戻した市原
ゆるり身を起こし辺りを見回してみる
ソコは見慣れた、自身の家
くるりと再確認するかの様に見回す事した、次の瞬間
「……!」
突然に、携帯が着信告げる
突然に耳元にあった携帯が着信を告げる
ビクリと身体を震わせてしまい、恐々サブディスプレイを見てみれば
相方からだった
『よぉ、八雲。やっと起きたか』
「……何か用か?」
努めて普段通りに返してやれば
相方は何一つ変わる様子もなく、仕事の話をし始めた
『今度雑誌に載せる風景写真なんだけど、今日撮りに行こうと思うんだけど』
「今日?えらく急だな」
『いや、ほら。今日天気いいし』
今日は絶好の日なのだとの相方に
市原は僅かに溜息をつきながらも仕方なしに承諾する
『あ、でも大丈夫か?何か昨日具合悪そうだったろ』
「平気だよ、じゃ、今からそっち行くわ」
『解った。じゃ、後でな』
通話が切れ、市原は深々しい溜息をつくと
取り敢えずはのそのそと着替えを終え家を出た
「……今日、何日だっけか?」
ふとそんな事が気に掛り、携帯を開く
デジタル時計の上に表示されている日付を見
市原は瞬間身体を強張らせた
「……日付が変わってない?」
確かに自分は寝て起きた筈だと
ディスプレイ画面の時計をまじまじと眺め見る
不意にその画面が乱れ、黒に染まる
電源が切れてしまったのかと思ったがそうではないらしく
どうしたのか、暫く眺めていると
その深い色に、魅せられる
「あ゛……」
まるでどこか高い所から突き落とされてしまったかのような感覚
崩れる膝を支えようと伸ばした手を、不意に誰かに掴まれた
「……ほ、むら?」
向き直ってみれば、そこに居たのは焔
驚きに呆然としていると、焔は市原から携帯を取り上げ
その真黒の画面を見やる
「……成程」
一人何かに納得すると、焔はその携帯を地面へと叩きつける
硬質てきな音を立て砕ける携帯
其処から溢れ出してくる黒い何か
それらがまるで生き物の様に蠢き、市原の肌の上を這う事を始める
身体を恐怖で強張らせる市原
呼吸が乱れ、喉の奥を擦る様な音が漏れる
「……散れ。これは僕のモノだ」
その市原を焔は背後から抱き、黒い影を手で払う
影達は瞬間動きを停め、まるで逃げる様に逃げて行った
「……余り、手間をかけさせるな」
言い終わるや否や焔は市原の身体を軽々肩の上へ
まるで荷でも運ぶかの様にそのまま歩いて行く
「は、離せ!俺に触るな!」
訳は解らない、だが逃げなくてはいけない
本能がそう訴え市原は暴れる事を始める
「……お前は、いつまで――!」
不意に、焔の表情に苛立ちのソレが浮かぶ
「お前には、影法師が何のために居るのか、それを教えてやる」
口元が間近で不敵に笑んだかと思えば何所か見知らぬ場所へと連れ込まれ
目元を不意に黒い何かで覆われ、そのままその場所に一人放置されたのだった……

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