《MUMEI》

「お願い、待って……待って!」

 ティアラは大男の腕に、力の限りしがみついた。

「うるせぇ!」

 大男に振り払われ、なすすべもなく地面に叩きつけられる。

「っ……」

 それでも起き上がって、今度は、黒猫をふんずけている大男の足をどかそうと試みる。

「どけ、邪魔だ!こいつはおれの耳にかじりついてきやがったんだよ!」

 見ると、確かに男の耳が赤くなっている。

 だが、ティアラにとってそんなことはどうでもよかった。

 ちょーっと耳をかじられたくらいで剣を持ち出すなんて、なんて狭量な男なの!!

「い・い・か・ら!!黒ニャンを離してッ」

 大男の足を掴む手に力をこめながら、叫ぶ。

「どけってんだよ!」

 ついに大男はティアラに向かって拳を振り下ろしてきた。

 殴られる。

 そう思ってぎゅっと目をつむったが、いつまでたっても衝撃がこない。

「……あら?」

 恐る恐る目を開くと、一人の男が大男の拳を掴み、睨み合っているのが見えた。

「……ジーク?」

 じゃない。

 この人は、誰?

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