《MUMEI》 「シメは僕がやる」。取り出したナイフで俺の頬にピッと一筋の傷を与えられた。 「てめえらは何したって、許さねえ」 流れる血が、恐くなった。 こぼれた血痕を見て、学校の社会の授業で習った戦争の授業を思い出した。 教科書には死体らしき写真が何枚かあったが、明確に死体という実感はなかった。 これが、死というイメージ。 死という痛み。 もしかしたら、自分もあのような事になってしまうのか……。考え出したら、恐くなった。 そしたら、身体の精神は『僕』に戻った。 体中が震えだした。 「何だ? 急に目つきが変わったな」 『俺』が堪えていた涙が、滝のように溢れる。 「言わなかったか? 泣いたって許さねえ。謝れたって許さねえ。こんな所に来るべきじゃなかったな。ガキ」 ナイフを逆手に持ち直し、手を上げた。 「やめてくださいっ! 私ならどうなったって構いませんから! 薫くんを放して!!」 ミクちゃんが叫んだ。 「そういうわけにはいかねえよ。俺はとことんムカついてんだ。それにてめえは大切な人質だ。キズなんかつけらんねえ」 「そんな……」 何も言えなくなり、涙する。 「死ね」 僕の顔を狙いすまし、ナイフを振り下ろす。 これじゃ、死ぬ。 マズい。 助けて。 情けない。 助けに来たのに。 蹴散らしたいのに。 ナイフが刺さる寸前で止まった。 「…………」 かなり驚いている長パーマ。 一体どうしたんだ。 何で途中でナイフが止まった。 何をそんなに驚いている。 ナイフを落とす。 頭を抱える。 後ろには………新斗。 鉄パイプを持っている。 それで長パーマを打ったのか? 待て。 待てよ。抵抗した。響介が人質になっている。今にも殺されそうなんだ。 響介を見る。チャラ金髪だけがいる。倒れている。 「……きょ…ぅ…」 今気付いた。うまく喋れない。 「ハァ……ハァ……。ボクを拘束しないからだ。バカめ」 鉄パイプを捨てながら言った。 「響介なら大丈夫だ。あのチャラいのを後ろから首を締めてやった。死んではいないはずだ。きっと」 じゃあ響介は? 「……くっ」 長パーマが立ち上がる。 まだ立っていられるのか。 「…てめえ……!!」 裏拳。 新斗の顔面に見舞う。 新斗は倒れ、苦しそうだ。 でも、新斗には悪いけど、おかげで隙が出来た。 僕は立ち上がり、掌に爪がくい込む程に強く握る。 「…! てめ……っ」 長パーマが振り向く、だけどもう遅い。 『蹴散らそうぜ』 心の声が聞こえた気がした。 さっきまで、闘ってくれてありがとう。 シメは僕がやる。 「う…あ゛……あ゛あ゛ああああああああ!!!!」 僕の拳を長パーマの顔面に叩き込んだ。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |