《MUMEI》
即決即断。
拳が顔面にくい込む感触がした。
正直、僕の嫌いな感触だ。
「ハァ……ハァ……ハァ」
息が荒くなる。
整える事が出来ない。
長パーマは倒れている。
ピクリとも動かない。
勝った。
勝ったんだ。殴れたんだ。救えたんだ。
僕はミクちゃんを救えたんだ。
膝がガクッと下がり、倒れる。
「大丈夫か、神名?」
新斗が尋ねる。
大丈夫じゃないよ、全然。
いつの間にか新斗が解放したミクちゃんと美鶴が近付いてきた。
たった数時間なのに、とても懐かしい。
「薫くん…!薫くん…!薫くん…!」
涙しながら、何度も僕の名前を呼ぶ。
「…だぇ…」
うおっ、声が出ない。
喉が痛い。…潰れちゃったのかな……。
「『僕は大丈夫だよ。だから泣かないで、ミクちゃん』と神名は言っているな」
新斗が代弁してくれた。
微妙に僕のモノマネをしているのが、少し癪だけど、感謝しなきゃ。
僕はコクコクと頷いた。
「それよりさ。響くんはどこに行ったの?逃げたんじゃないよね?」
美鶴が言う。
そういえば、いない。
響介の性格上、逃げるなんてしない………はずだ。
「風影か。それなら――…」
言いかけで止まった。
「どうしたの、新斗くん」
僕を含め、皆が新斗を見た。
首にナイフを突きつけられている新斗。
ハゲだ。
あいつは確か、新斗のアッザムリーダーでやられたはずじゃ……。
「……死ぬかと思ったぞ……」
「…まァ感電していたからな」
なんてヒドい仕打ちなんだ。
「…もうこんな時間だ。身の代金の受け渡しの時間はもうとっくに過ぎている……。貴様らのせいだ」
冷静に話している。
「よく言う。お前達が逆間を拐ったからこうなったんだ。後悔するがいい」
ちょ、新斗!?なんで煽ってるの!?
「……そうだな。当然の報いかも知れん。だが、どうしても金が必要なんだ。逆間ご令嬢、人質交換だ。お前がなると言うのなら、こいつらには手は出さない」
なっ。
「………!」
やめろてよ。そんなことを言い出したらミクちゃんは迷わない。
昔からそうだ。優しすぎる。
「……わかりました」
ほとんど即決だった。
「ぢょ……!ま゛……」
くそっ。声が……。
「ごめんね、薫くん。せっかくそこまでして助けてくれたのに……」
「あ゛……!がっ」
そんな事言わないでよ。聞きたくない!行くな、行くんじゃない!!
人質が交換された。
新斗が突き飛ばされ、代わりにミクちゃんの首にナイフが突き付けられる。
僕は結局何も出来なかった。

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