《MUMEI》
どんぴしゃり。
「…くそ、ボクがいながら何て失態だ」
フラフラな新斗。
人質という緊張感から解かれたが、まだ動ける程じゃない。
僕だって。とてもじゃないが、動けそうにない。
っていうか、声が出ない。
じゃあ美鶴?
ダメだ。美鶴はまだ女の子じゃないか。体力的にも、ミクちゃんの救出なんて出来るはずがない。
響介だって、何故かいない。
どうする。
何も……思いつかない。
『俺』も何も言わない。
くそ……、万事休す。
新斗が腕時計を見た。
「……そろそろか…」
呟いた。
何だ、新斗は一体……。
外がドタドタと複数の走る足音。
たった一つの出入口が勢いよく開いた。
「警察だ!そこを動くんじゃない!」
数人の刑事が入ってきた。
その手には、拳銃。
警察?なんでここに?
真ん中には、見覚えのある顔。小鳥遊章臣さんがいた。
後ろから響介。
……え?響介が呼んできたのか?
「まさかの、グッドダイミング?」
笑いながら言った。
確かに、響介はケガは少ない方だったが、美鶴にいかせれば良かったじゃないか。
「そこに、風影がいたから」
新斗は僕の心を読めるのだろうか?ムカつく。
それにしても、どこかで聞いたことのあるフレーズだ。ムカつく。
「そちらこそ動くんじゃないっ!!」
ハゲが叫び、ナイフがミクちゃんの首を少し触れた。
血が流れる。
…大丈夫だ。落ち着け。あれは安全ピンを刺した程度のキズだ。まだ大丈夫だ。
そう思いながらも、拳の握りが異様に強くなる。
「…落ち着くんだ。人質を解放しろ」
小鳥遊さんが言う。説得するような言い方だ。
でも、そんな説得は無意味だ。
「落ち着いたら、人質を解放したら、金が手に入るのか?」
「かと言って、これが最善策とは言えないと思うが……」
「うるさいっ!!」
ナイフを持つ手に力がこもる。


「妹さんのためですか?」


ミクちゃんが呟いた。
ハゲは驚く。
「何故お前がその事を……!?」
どんぴしゃり。
「こんな事をして、妹さんは絶対に喜びません。間違った方法でお金を手に入れるなんて……」
「……何故そんな事まで」
ハゲは動揺している。
ミクちゃんが話している事は全部どんぴしゃり……らしい。
どこかで盗み聞きしたのだろうか。
「ふざ――」
「ふざけてなんかいません」
ハゲの言葉をミクちゃんが被せる。
「妹さんは罪を犯してまでお金を集めるなんて、私だったら、そんな兄は許したくありません」
諭すように言った。

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