《MUMEI》 彼女は首を横に振ってみせ、 「食べてない」 「だろーな」 神一《かんいち》から嵩田《かさだ》までは自転車に乗ってもそこそこ時間がかかる。 あの時間、ウチの正門にいたってことは、午前の授業が終わってすぐこっちにきたことになる。 それに、彼女からは食べ物特有の『匂い』がしない。途中で買い食いもしてないだろう。 オレはバッグから(今朝、勝手に入れられていたもう一つの)弁当を取り出す。 「コレやるから、食えよ」 彼女は差し出された弁当に目をやり、驚いたようにオレを見てくる。 「いらねーのか? まあ、ムリに食えとは言わねぇけど」 「……ううん」 彼女はまた目を閉じて考えるようにしている。よく見せる彼女の仕草だ。 「そのお弁当……、もらってもいいの?」 「おう、いいぞ。遠慮すんな」 彼女は弁当を受け取ると自転車のカゴに入れ、 「ありがと……」 彼女は少し俯《うつむ》いたまま、目だけをオレに向けて礼を言った。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |