《MUMEI》

彼女は首を横に振ってみせ、

「食べてない」

「だろーな」

神一《かんいち》から嵩田《かさだ》までは自転車に乗ってもそこそこ時間がかかる。

あの時間、ウチの正門にいたってことは、午前の授業が終わってすぐこっちにきたことになる。

それに、彼女からは食べ物特有の『匂い』がしない。途中で買い食いもしてないだろう。

オレはバッグから(今朝、勝手に入れられていたもう一つの)弁当を取り出す。

「コレやるから、食えよ」

彼女は差し出された弁当に目をやり、驚いたようにオレを見てくる。

「いらねーのか? まあ、ムリに食えとは言わねぇけど」

「……ううん」

彼女はまた目を閉じて考えるようにしている。よく見せる彼女の仕草だ。

「そのお弁当……、もらってもいいの?」

「おう、いいぞ。遠慮すんな」

彼女は弁当を受け取ると自転車のカゴに入れ、

「ありがと……」

彼女は少し俯《うつむ》いたまま、目だけをオレに向けて礼を言った。

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