《MUMEI》
車のお話
ソイツは既に老いていた。

少し見ただけでポンコツだと分かる。擦れ違うたびに言われるだろう。

それでもオレは好きだった。親父の物だった、唯一の相棒。

運転席のドアを開け、低めの座席に腰を落とす。足を動かしやすいように位置を変え、見やすいように角度を合わす。

ハンドルの向こうにメーターがある。左にタコと温度計、真ん中にスピードメーター。右側にガソリン。

スピードメーターの丁度真ん中くらいに走行距離が載っている。随分と走り込まれていた。

ギアをニュートラルに入れキーを差し、セルを回す。

一回では掛からなかった。やはり古いからだろう。

もう一度セルを回す。今度は成功した。排気管から響いてくる音と、前から来る振動がリンクする。

そのままの状態でアクセルを踏み込む。振動は一層増し、エンジンは大きく唸りを上げた。

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