《MUMEI》
呼び出し
 その後、俺達は急いで科学室へ戻った。運が良かったのか、先生は未だ来て居なかった。

「あー・・・やっと、終わった!」
 背伸びをした靖は、後ろを見た。
「教室戻ろうぜ、隆司・・・って、あれ?」
 科学室を見渡しても、隆司の姿は何処にもなかった。
「阿佐鎌さんならもう、戻りましたよ」
 後ろに、教材を抱えた沙紀が現れた。
「へ〜・・・じゃあ、一緒に戻ろうぜ」
「えっ・・・は、はい」

「靖君は、科学嫌いなの?」
 沙紀が、おずおずと靖に聞いた。
「何で?」
「え・・・いつも、眉間に皺寄せて授業をやっているからさ・・・」
「ああ、科学は好きだけど先生がな・・・」
「へ〜・・・」
「・・・」
「・・・」
(終わり!?)
「・・・」
 靖が、そう思い沙紀を見ると、少し話しただけなのに頬が赤い。その時靖は、はっと思いだした。
(そうだ・・・沙紀は、人と話す事が少ないんだ・・・)
「・・・」
「なあ、沙紀」
「はい!」
 突然、話掛けられた沙紀は、驚いた表情をしていた。
「お前は、好きなの?科学」
 ポケットに手を入れてから、沙紀を見た。
「えっと・・・結構好き・・・です」
「どういう所が?」
 優しい表情で話し掛けると、それを見て沙紀は頬を赤らめた。
「実験とか・・・です」
「ふーん・・・じゃあ、一番好きな教科は?」
 科学で質問ができなくなった靖は、質問の方向を変えた。
「数学・・・かな?」
「え!?」
「?」
「マジで!?」
「はい」
「えー・・・俺は、無理!」
「そうなんですか!?」
「もう、中学の方程式から無理」
「え!?どうやって、入学できたんですか?」
「苦手なだけで、できない訳じゃないから・・・」
「そうですか・・・」
 沙紀は、小さく笑った。
「・・・」
「靖君は?」
「俺は・・・」
 靖が、言おうとした瞬間・・・
「近藤君!道河君!」
 喜田 正臣39歳。
『?』
「ちょっと、良いかい?」
 正臣が、前方方向から走ってきた。
「はい」
 この時・・・何で俺らは、「はい」と言ってしまったのだろう・・・

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