《MUMEI》
記憶。
救えなかった。
その気持ちでいっぱいだった。
「…あ、薫くん……?」
目が開いた。
起こしてしまったようだ。
「…ごめん。起こしちゃったかな……」
でも、元気そうだ。……良かった。
「あの……ちょっと、痛い……」
「わっ、ごめんっ」
いつの間にか、手を強く握っていたようだ。
急いで放すと、ミクちゃんは上半身だけ起き上がる。
「大丈夫?久美ちゃん」
「うん、大丈夫だよ。美鶴ちゃん」
ミクちゃんの顔の近くまで身を寄り出す美鶴。
「……ふぇ、起きたん?」
響介が目を覚まし、それに続いて新斗も起きる。
「ん?神名も起きたか。体は無事か?」
「ミクちゃんが大丈夫なら、僕も大丈夫だよ」
「なにニヤケてんだ?」
なぬ?
「みんなどうしたの?私が入院してるからってね〜」
「そりゃみんな心配だからだよ」
「ありがとう、みんな」
ホンッッットに良かったっ!!!
「そういえばみんな、夏休みの宿題やった?」
……あれ?その話は今する事かな?
「私まだやってないんだよね〜。美鶴ちゃん、見してくれないかな?」
「……え、あの……、久美ちゃんなら頭良いし、大丈夫じゃないかな?」
美鶴が戸惑いながら言った。
「オレも見してほしいっ!!」
響介が言った。
「ダメよ、響くんは」
「冷たっ!美鶴冷たっ!」
……待ってよ。宿題って言ったら、響介はともかく、ミクちゃんならとっくに終わらせてるはずでしょ?
「あははは〜」
今日、誘拐されたばかりなんだ。いくら天然が若干入っているとは言え、そんなに早く立ち直るはずない。
「…ミクちゃん。今、何日かわかる?」
かなり突拍子もない事だけど、もしかしたら……。

「7月30日でしょ?」

「……………!!!!」
そんな………嘘でしょ………。
みんな下を向いている。知っていた………のか?
「……美鶴ちゃん……、これって」
「記憶喪失」
おばさんが言った。
「……え、じゃあ今日起きた事も、この1ヶ月の夏休みの事も、全部……失った……?」
おばさんが頷いた。
本当か?
嘘でしょ?
記憶喪失?
いきなり?
こんなタイミングで?
頭を強く打ったから?
攫われたから?
助けが……遅れたから……?
「何でだよ…そんな……」
床に膝を付く。
「どうしたの薫くん?ずっと思ってたけど…、みんなそのケガ大丈夫?」
心配そうに顔を覗かせる。
大丈夫じゃない、全然。
涙が溢れ出る。
「薫く―――」
「うわぁぁあああああああああああああ!!!!」

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