《MUMEI》
結末。
僕らは、記憶を失ったミクちゃんにはあの日の事は言っていない。
混乱させてしまう可能性もあるらしいし、何よりも、悲しませたくないからだ。
秋葉原の妹は、ミクちゃんのお母さんが治療費を出してくれた。
その場にいた全員が証人となり、かなり不本意だったらしいが、娘の頼みとなれば、財布が緩むらしい。
それに、小鳥遊さんが言っていた事だが、あの日、小鳥遊さん達は僕らを付けていたらしい。
もっと助けが早かったら、あんな事はならなかった、と響介が激昂していたが、もう起きてしまった事は仕方がない。
実際、あの日のミクちゃんはもういないのだから。
新斗が言った。
事件の記憶を蘇らせてはいけないと。
あの日ミクちゃんの記憶の大半は恐怖で埋め尽くされている。
思い出してしまえば、ミクちゃんの心に多大な傷を負わせてしまうかもしれない。
1ヶ月分の記憶を失っているということは、当然、あの事も忘れてしまっている。
とても悲しい事だけど、思い出させるわけにはいかないんだ。
僕、響介、新斗、美鶴は相談した。
記憶が無くなったとは言え、ミクちゃんはミクちゃんだ。
変わらず、一緒に遊ぼう。
と、誓い合った。
だが、無理だった。
夏休みが終わってから、毎日のように遊び日を過ごした。
とても楽しかった。
だが、同時に複雑な気持ちになった。
僕らは一体どうすればいい?
ついに、僕らは小学校を卒業した。
だが、その頃には遊ぶ事など、あまり無かった。
毎年ミクちゃん家でやっていたクリスマスパーティーも無かった。
ほとんど無意識で、僕らはミクちゃんから身を退いていたんだと思う。
ミクちゃんは悲しかったと思う。
ワケもわからず、僕らに無視されるんだ。良く思う方がどうかしている。
ミクちゃんは友達が多い。僕と違って。
だから寂しい事は無かった、と思いたい。
何度も言うようだけど、僕らはミクちゃんに思い出させてはならないんだ。
これが僕らの誓いに変わった。
僕ら5人はバラバラになった。
中学に上がり、クラスも全員バラバラになった。
そのおかげか、ミクちゃんと話す事は一切無くなった。
これが僕らの絆の結末。

ちなみに、あの日から僕の中には、『俺』が住み着くようになった。
感情が高ぶったり、少し欲を思ったり、ムカついたり、興奮したり、僕がだらけていたりしている時に、良く現れる。
これがあの日の事件の後に残ったもの。
乗り移られた時は、すごくムカつくけど、不思議と憎む事が出来ない。
当たり前か。自分自身なのだから。
僕はこれをリミッターと呼ぶ事にした。



そして僕は、悪夢から覚めた。

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