《MUMEI》

 古豪の杜は、遠方領主の土地である。この領主の先祖が盗賊頭の血筋だったらしい。一族は財宝と土地を相続しながら世代交代を繰り返し、財力と権力を手中にする成果を収めた。杜には盗賊時代に隠された財宝が大量に埋まっていると噂されている。
 代々の領主は大変な守銭奴であった。彼らは盗賊の根城だった古豪の杜に、宝物を守るための守番を置いた、とされているのだが。
「屈強な輩らしいんだな、これがまた。大分ご同業が挑戦したんだけど、全部全滅だって話。でもまさか、ラティメリアまでいるとはね」
 ふ、ふふふふ、ふふ、ふふふふふと、ついには笑い始めた山師を放っておいて、楽器職人は思案する。
 白亜の化石、古代魚である。山師のおかげで、片足を山師稼業に突っ込んでしまっている彼女としては、興味を惹かない話でなくはない。おあつらえ向きに本業の仕事の依頼は今のところない。
 だが、山師の所為で、これまでどれ程ひどい目にあってきたか。
「んじゃあ、そういうことで」
「ちょっと、守番への対策は?」
「どーにかなるでしょー」
 山師は手を上げると出て行ってしまう。
 あまりにも無策だ。
 楽器職人は自問する。
 いいのか。本当に。
 彼女にはわかっていた。自分が結局は、山師の少女と行くことを。そして、必ず、ひどい目にあわされるということも。
 不条理というものを、楽器職人は身にしみて、よく知っていたのだった。

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