《MUMEI》
風影響介。
学校に着いた頃には、まだ6時45分。
とりあえず教室でマッタリとする事にした。
響介の教室。2年D組。
「じゃあよ、あの日からこの2年間、何をしてたか話し合おうぜ」
響介が言った。
「いいけど…、面白い事なんか何一つなかったよ」
事実だ。
ミクちゃんが記憶喪失なのに、のんきに楽しめないよ。
「…まァしゃーないか。オレも部活に打ち込むしか、なかったからな」
たった、それだけ。
この2年間の思い出は、まるで無い。空白だ。
「じゃあさ、戻れるとしたら、戻りたいか?2年前のような関係に」
「そりゃ戻りたいけどさ、そんな上手くいくはずない。難しいと思うよ。僕らは一度、ミクちゃんを避けてしまったんだから」
それもまた、事実だ。
僕らはミクちゃんの心に、ぽっかり穴を空けてしまったんだ。
「でもよ。昨日、久美は変わらず接してくれたよな」
「…そうだけどさ……。ミクちゃんにあの日を思い出させるなんて、マズいよ」
「…………だよなぁ」
響介はため息を吐きながら、机に伏せた。
会いたいけど会うわけには行かない。
何てジレンマだ。
「そういえば、部活って……何を作る気だったんだろうな」
「運動部では……無いと思うけど……」
ミクちゃんはあまり運動を得意じゃないからだ。
「ま、オレ達が話しててもしゃーないか。話題を変えよう。お前………彼女出来たか!?」
「はあっ!?んなの出来るわけねえだろ、アホ!!」
『俺人格』に切り替わった。
「おほっ、出たな二重人格」
実はこのリミッターを知っているのは、響介と緋門善吉、そして晴姉さんの3人だけだ。
クラスでは情緒不安定野郎と思われている。悲しき事に。
「……良かったぜ。お前に先越されたら、死んでも死にきれねえからな」
「……そこまでなのかよ」
ヒドい事を言うな、響介は。………まァいっか。
「うん?そういえば美鶴は誰かと付き合ってたよなぁ?」
『俺』が言った。
そう言われれば確かに。風の噂で聞いた事がある。
そして、それは響介にとって禁句だったらしい。
いつの間にか胸ぐらを掴まれていた。
「…オイ。その話、詳しく教えてくれないか?」
響介がなんか怖い。
「……おめえ、誰に指図してんだ?」
何故そこでケンカを売るんだ!?
「ちっ、その人格の薫じゃ話にならねえ。本物を出せ」
「やだね。俺も本物だからだ」
…バカっ!それはヤバいだろ!
「…てめえ…!!」
響介の今の表情は、今までに見た事が無かった。

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