《MUMEI》
斧…?
「あの時、僕達は神社に行こうとしてたんです。」


司と洋平は事件の内容を知るはずもなく、優香と美樹は泣き止む気配がないため、井上が一人で状況を説明しだした。


「途中までは、真弓さんの様子に特に変化なかったんですが‥」


刑事は、一語一句漏らさないといった感じで、また忙しなくペンを動かし始める。


「鳥居を潜った時でした。あ、正確には僕ら三人だけなんですけど。」

「というと?」


刑事は、チラッとだけ井上の顔を見て、またすぐに紙に視線を戻す。


「真弓さんに異常が訪れたのはその時だったんです。彼女も僕らの後に続いて鳥居を潜ろうとしたら、急に怯えだしたんです。」


「怯えだした?」

「はい。」


怪訝そうな刑事の顔にも怯む事なく、井上は冷静な口調で話し続ける。


「なんか、斧がどうとか言い出して…」

「斧?」

「はい。でも斧なんか何処にもなかったんです。
それから真弓さん、いきなり走り出したんです。時々後ろを振り返りながら…」

「後ろ?何か居たのか?」
「いえ…強いて言うなら、僕ら三人だけです。でも真弓さん、僕らなんかまるで見てなかったんです。」





刑事はサッパリ理解出来ないといった顔で、頭を掻いていた。

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