《MUMEI》

彼女が弁当を食べ終わったのを見計らい、声をかけようとした時――

「本人だけど、本人じゃないよ。ワタシ」

「え」

不意を突く発言に、オレは見事にカウンターをもらった気分になった……。しかし確認することが残っている以上、倒れてそのまま『KO』ってワケにはいかない。

「ごちそうさま。おいしかったです。あとこれ――」

そう言いながらオレに弁当の空箱と……、生徒手帳!?

――慌てて彼女の顔を見ると、既《すで》に真剣なモノへと変わっていた。その表情は鋭く研ぎ澄まされた刃物のようだ。

「オマエ、これ……」

「知りたかったんでしょ? それが証拠」

予期せぬことばかりで動揺は隠せないが、結果としてはいいだろう。

緊張からか、妙に手のひらが汗ばんでくる。

オレが握っているのは、求めていた答えの一つなんだ! 震える指で手帳を開く。

そこには彼女の証明写真と――


『井下和美《いのしたかずみ》』と名前が書かれていた。

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