《MUMEI》 彼女は頷《うなず》く。 「身体を借りてるってことは、返すこともできる。ならオレと『融合』するためにも、井下さんの身体は解放するってことだよな?」 その言葉に、しかし彼女の表情は曇《くも》り、首を横に振る。 「残念だけど、今はそれができないの」 今はできない? 後々《のちのち》返せるようには聞こえるが……。 「理由があるんだよな?」 「うん。アンタも知ってるでしょ? この身体は事故でボロボロだった。あのままなら病院で治療を受けたとしても死んでたわね。そこでワタシは井下和美の意識に入り、命を繋ぎ止める代わりに身体を借りる契約を交わしたの」 「……じゃあ解放すると、井下さんは……」 契約が終わり、絶命する。キャルはそう言ってるんだ。 こればっかりはどうしようもないのかと、彼女に問うような視線を投げかける。 すると彼女はそっと自分の胸に手をやり、静かに目を閉じ―― 「徐々にだけど、この身体は快方《かいほう》に向かっているわ。だけど今の段階で返すには、まだ危険な状態なのよ」 つまりキャルのおかげで井下さんは一命を取り留めたのか。 前へ |次へ |
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