《MUMEI》

生きて帰れないかもしれない……むしろそうなる可能性の方が高いだろう。

本音を言うと裏の世界になんか行きたくないし、当然死ぬのはイヤだ。

上手くこの場を逃げ果《おお》せたとしても、向こうでキャルがやられればオレも消える――これでは一時的な避難でしかない。

根本的な解決にはやはりヴェイグ≠ノ行くべきだ。

自分の身を守るためにあえて危険に飛び込む……それが家族や友人を守ることに繋がる。

ならばオレが執《と》るべき行動は――

「一つ、条件がある」

「なに?」

顔を上げると、若干不安そうに顔をしかめている彼女が目に映る。

「弟に『今日から土日はオレも家に帰らない』ってメールさせてくれ」

上着のポケットから携帯を取り出し、彼女に見せた。

「随分《ずいぶん》と時間に余裕がありそうじゃない。問題を解決するには十分な時間よ。それに連絡は大事だもんね。お好きにどうぞ」

オレの返答に安心――というか満足したのか、彼女は微笑んでいる。

「そっちは井下《いのした》さんの家族に、どう説明するんだよ」

そう訊《き》くと、彼女は意地の悪そうな顔で、

「その件ならとっくに解決済みよ。なんの問題もないわ」

何かを思い出したのか、クククと一人で笑っていた。

何やったんだよ……コイツ。



――オレは今、彼女の自転車に乗せてもらい、例の事故現場に向かっている。

だがこの先、一体何が待ち受けているのか……オレには想像もつかなかった。

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