《MUMEI》 「アレを押すんですよ」 渓流《けいりゅう》付近に目をやると、確かにそれらしき岩が崖の断面に埋まっている。 オレ達はその場所まで移動し、岩を取り囲むように立つ。 押せるったって……いい加減デカイぞ? 「押せるんですか? コレ」 「はい」 ……話の流れからするに、どうやらオレが押さないといけないようだ。 とりあえず肩にかけていたバッグを下ろす。 「サッサと押してくれる? まぁ、アンタに押せたらだけどね」 「なんだよそれ。スイッチになってんだろ? だったら――」 岩に手を当て、力を込める。 こんなもん簡単に、押せ……てない! なんだ!? 足を前後にしっかりと踏ん張り、腰を落とす。膝の屈伸を利用しながら全身の力を使い、身体ごと押し込む。渾身の力でだ。 動けぇぇーっ! 「うおおおぉぉぉぁぁあっ!」 ――よ〜し……! ビクともしない。どうなってんだ……!? 「ぐっ、ハァハァ……」 息が切れる。こんなに押してんのになんで動かねぇんだよ! 前へ |次へ |
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