《MUMEI》

「何なんだよ、コレ」

「岩よ」

「見りゃわかるよ、それは……」

これまでの道のりで体力を消耗し、今の岩押しで完全にガス欠になり、オレはその場に座り込んでしまう。

「オレが言いたいのはな、この岩がスイッチなのに押すことができない。一ミリすら動いてねぇだろ? 押せる人と代わってくれってこと」

冗談抜きで疲れてしまった。

『根性なし』とか言われようが、もう動けない。

「だからアンタにとって、それはスイッチじゃなく、ただの岩でしかないって言ってんのよ。わかった?」

何か言ってるが、思考がうまく働かない。

「え? 悪い……、もう一回言ってくれ」

「それはスイッチじゃない。アンタにとってはね」

なに? なんて言った?

『それはすいっちじゃない』? それはスイッチじゃ……ない? え……?

えっ!?

「スイッチじゃない――――っ!?」

大声が静かな谷間に響く。

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