《MUMEI》

アラタの白い首筋に樹の大きな広い手が掛かる。


「お前を殺す。


死ねばいい。死ね、死ねよ

お前も川に流してやろう。

その薄い皮はぐちゃぐちゃに膨脹して魚に啄まれ、華の香りの体臭は腐臭を放つ。
人々が讃えた美貌は目を背ける程醜く崩れ落ちる。」
樹は呪うようにひとつひとつの言葉を紡ぐ。




「お前は殺せないよ。高柳樹の体は俺の命令には絶対服従だから。」
アラタは喉を親指の腹で撫でられ、そこが黒く爛れる気がした。
樹の顔が歪む。同時に首に力が篭る。




「潰してやるよ。全て。


キス以上のことして、お前の自尊心も潰す。

……犯し殺してやる。」
アラタの気管は狭くなり苦しそうにヒューヒュー呼吸を続けている。
口の端からは唾液が流れ落ちてコンクリートに爪を立てながら空を仰いだ。


溺れるように脚が痙攣を起こしている。樹の片手がアラタの内股に触れた。

映像はモノトーンで樹の影がぼんやり闇に浮かび上がっている。


これは、樹ではない。
化野アヅサを語る化け物だ。アラタは頭の中でそんな電波を受け取った。


死に対しての抵抗はなかった。しかしまだ死んではいけない。そういう誓いだ。


「や、………め ろ 」

戻ってこいと繰り返す。

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