《MUMEI》 新曲配信「さて、じゃあ帰ろうか」 ミユウはそう言うと、トレイを持って立ち上がった。 タイキもそれに続く。 カップや容器を捨てながら、タイキは「帰りは歩くから」と言った。 今言っておかないと、流れでまた乗ってしまいそうだったからだ。 「なんで?乗って行けばいいじゃん。公園まで送っていくって」 「いや、遠慮する。捕まりたくないし」 タイキが再び断ると、ミユウは馬鹿にしたように「気の小さい男」と笑った。 「……気はでかけりゃいいってもんじゃないと思うぞ」 小さな声で反論してみるが、ミユウには聞こえていないようだった。 「まあ、別にいいよ。じゃあね」 ミユウはそう言うと、一人で店を出て行ってしまった。 結局、まともな話ができなかったと思いながら、店を出たタイキはのんびり歩き始めた。 そのすぐ脇の車道を、ミユウの真っ赤な車がクラクションを鳴らして通り過ぎていった。 乗っているときは思わなかったが、なんて派手な車だろう。 どうやら普通の赤ではないらしい。 パールレッドとでもいうのだろうか。 なんとも説明しにくい色をした車だ。 車が見えなくなって、タイキはふと端末を取り出した。 「今日じゃなかったっけ」 一人呟きながら、端末を開く。 今日はミライの新曲の配信日だったのだ。 受信ボックスを確認してみる。 「お、来てるじゃん」 タイキはさっそく聴こうと、コードレスイヤホンを取り出し、耳につけた。 そして、端末のキーをクリックする。 間を置いて、イヤホンから静かに音楽は流れ始めた。 昨日、ミユウに聞かせてもらった曲と同じだったが、じっくり聞くとやはり心に染みる歌声だ。 上機嫌で音楽に酔いしれていると、前方に見覚えのある車が停まっていることに気付いた。 「…あいつのだ」 真っ赤なその車は、さっき横を通りすぎたばかりのミユウの車だった。 しかし、運転席に彼女の姿はない。 タイキは車とは反対側に建つビルを見た。 「……警察?」 そこに建つのは警視庁のビル。 やはり、捕まったのだろうか。 それにしては、車が放置されているのは妙だ。 タイキは不思議に思いながら、車とビルを見つめていたが、このままでは自分が不審者と思われてしまうと気付き、そのままアパートへ帰ることにした。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |