《MUMEI》
――その後に






俺は身支度を整え始める。




直哉はベッドヘッドに寄りかかりながら煙草を吹かし、俺をじっと見ている。





「今から仕事?」



「うん、そう」






――今日は昼過ぎからファッション雑誌の撮影が入っている。






直哉も平日は大学、夜遅くまでバイトだから会うのは土日の午前中ばかりだ。





「…マジ心配だよ」


直哉は灰皿に煙草を擦りつけながらぼやく。




「は?…何が?」



「だってよ、お前綺麗だから盗られんじゃねーかってめっちゃ心配だよ、いっつも良い男とか女とばっか仕事してんじゃん?
…そのさ、誘惑されそうになったりって…今まで有っただろ?」





モデル仲間と飲んだ時女の子が無理矢理俺の家に付いて来てしまった時があった。


親と住んでるし、妹と相部屋だから何もなかったけど、
初めて女の子を部屋に連れ込んだもんだから俺の母親が直哉に自慢気に言ってしまったのだ。



おかげでそれまでは俺のモデルの仕事に対して暖かく見守ってくれていたのに、余り良く思わなくなってしまった。


面白くなさげな色を浮かべる直哉の隣に俺は座る。


「バ〜カ、俺にはこ〜んなに焼き餅焼きの彼氏がいるんだから浮気なんか出来る訳ないだろ?
要らねえ心配されると俺仕事になんないし…、気持ち良く送りだしてよ」





俺は出来るだけの笑顔を作って…。




―――直哉もつられて笑いながら、







俺を送り出してくれた。










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