《MUMEI》
二つの世界
「冗談言わないで。異世界なんてあるわけない……」

「本当に?」

凜は言いながら立ち上がった。
一緒に羽田も立ち上がる。

「あれを見ても、そう思いますか?」

そう言って、凜が指したのは窓の外だった。

「あれって、なに……を?」

羽田は思わず、言葉を飲み込んだ。

 窓の外にはいつも通りの風景が広がっているはずだった。
しかし今、羽田の目に映っているのは、まるで違う風景。
いや、正確には同じ風景なのだろう。

 住宅街特有の同じような屋根が並び、その向こうの繁華街にはデパートや会社などのビルが立ち並ぶ。
たしかにいつもと同じ街。
その中で、いつもと違う点があるのだ。

それは街の至る所から黒い煙が上がっていること。

よく見ると、半壊した家や傾いたビル、屋根が破壊され、家の中が丸見えになっているものまである。
いつもの街のはずが、全く別の街のようだった。

「なん……、だってさっきまで」

「さっきまでは、こうだった?」

凜は言いながら、羽田の肩から手を退けた。
すると、次の瞬間には窓から見える街はいつも通りの姿に戻っていた。

どこも壊れてなければ、もちろん煙も上がっていない。

「なんなの?いったい」

こんがらがる思考のまま、羽田は凜を振り返る。

そして気付いた。

今まですぐそこにいたはずのレッカがいない。
部屋を出て行った気配もない。

「つまり、この世界にはもう一つの世界があるということです。今、私たちがいるこの世界と、」

凜は言いながら、再び手を羽田の肩に乗せた。
すると、消えたと思っていたレッカがいつの間にかさっきと同じ体勢で座っていた。

「レッカがいるこの世界と、二つの世界がね」

凜の声が静かに響いた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫