《MUMEI》
殺られる前に
「ふう。昨日とはまた、ずいぶん違う雰囲気だね」
ユキナは通りを見下ろして、腕を組んだ。
「だな。見ろよ、あのモニター」
「三日目。鬼 十五パーセント。子 十パーセント」
「ずいぶん減ったね。相変わらずパーセントが何人ぐらいかわかんないけど」
サトシが読み上げた数字に、ユキナは首を捻る。

「まあいい。とにかく、それだけ参加者が残ってるってわけだ」
ユウゴが言うと、サトシとユキナは頷いた。
そして、それぞれ三方向に体を向け、拡声器を口にあてる。

「いくぞ?」
ユウゴは二人の準備ができたのを確認して聞いた。
ユキナとサトシは同時に頷く。
「……せーの!」

『鬼、及び子の生き残りに次ぐ。このプロジェクトにおいて、不正を行っている集団がいる。その集団は、自らが持つコネを使い、楽な方法で参加者を手当たり次第に虐殺している。このままでは我々が殺されるのも時間の問題である。奴らのアジトは市役所の地下。死にたくない者は、殺られる前に殺れ!……繰り返す』

 三人は予め準備しておいたセリフを同時に読み上げた。
それを何度も繰り返す。

 夕暮れの空に、ヘリコプターが飛んでいる。
しかし、三人は隠れることもせず読み続けた。


 数回セリフを繰り返すと、下の通りにバラバラと人影が現れた。
皆、一様にダラリと手をぶら下げ、ユラユラと体を揺らしている。
そして顔だけをユウゴたちのいる方へ向けていた。
その様子にはまるで生気が感じられない。

 ユウゴはある程度、人が出て来たのを確認して二人に合図した。
「第二段階だ」
「うん」
「わかった」
三人は同時に頷き、再び拡声器を口にあてる。

『奴らは市役所の地下にいる。殺られる前に殺れ!』

 第二段階はこの短い文の繰り返しだ。
頭上ではヘリコプターが低空で飛び続けている。
ユウゴたちの行動を撮影しているのは明らかだ。

あまり時間がない。

もし、この映像を奴らが見ていたらすぐにでも逃げ出してしまうだろう。

 ユウゴはヘリの音に負けないように怒鳴りながら、下の様子を窺った。
さっきよりは人数も増え、だんだんと雰囲気も変わってきた。

あと一息だ。

ユウゴは少しずつ、言葉のスピードを速めた。
それに合わせて、ユキナとサトシも早口になっていく。

『奴らは市役所の地下にいる。殺られる前に殺れ!殺られる前に、殺れ!!』

そしてついに、彼らは動き出した。

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