《MUMEI》

「あっ」思わずもらした声に

そっくり同じく低い声が重なった。

《ドアが閉まりまぁす》プシュッとドアが閉まる。

それを見て芹奈と侑はまた「あっ――」と声をハモらせた。

「……すみません」

結局乗り過ごしてしまった侑が、

ため息をつきながら芹奈の前にしゃがみこんだ。

桜色の携帯電話を拾い、砕けてしまったストラップの

破片をきれいな指先でつまむ。

「これ、弁償します」

彼の声をちゃんと聞いたのは、初めてだ。

男子らしく低くて、でも思ってたよりやわらかい声。

ちゃんと相手に言葉を届けようとする話し方だった。

やさしく鼓膜を震わせた侑の声を追って、

芹奈はそっと耳に触れた。

相手が黙ったままなのを変に思ったらしく

侑が「?」と言うふうに顔を上げた…

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