《MUMEI》 唄を胸に樹は次の日、自宅に若菜を呼んだ。 「樹、どうしたの」 若菜はいつものように笑っている。樹は彼女が得体の知れないもののように感じた。 「昨日の夜、何処に居た?」 樹は声が上擦らないようにするので必死だった。 「やだな、家に決まっているじゃない。」 口角を上げて、彼女はくすくすと音を立てて笑った。 「俺は、見たよ。 昨日得体の知れない男とそういう場所に入っていった若菜を。 怒ってないから理由を説明するんだ。」 若菜に精一杯の今の気持ちを伝える。 「私じゃないわ」 真実とさえ錯覚されそうな揺るぎない精神があった。樹はこれ以上何を伝えればいいのか言葉が見つからなかった。 前へ |次へ |
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