《MUMEI》

 地学教師の瀧尾洋二は既に来ていたが、遅れて教室に入った二人を見ても、なぜか上機嫌であった。
「君たちも、もう知っているだろう」
 何を話そうとしているのか不明だが、当然だというような口振りの彼は、早く座って、と目線で二人に席を示す。
「先日、イサキ文具に隕石が落ちた。まあ、公然とは言えないんだが。そんな訳で、本日は特別授業をやろうと思う。なぜなら…‥」
 勿体をつけて、瀧尾が一度、口をつぐむ。
 これだ、と言いながら彼が取り出したのは、理科実験用のシャーレであった。
「何ですか〜」
 どこからか声が上がる。シャーレの中に見えるのは、小さな石の欠片だったので、無理もない。
「もちろん。隕石だ」
 自信満々に答えた瀧尾に向けられたのは、教室中からの疑惑の眼差しであった。イサキ文具店へは、どこかの有名大学の研究員が大勢やって来て、屋根に激突した塊を回収していったので、今後、有意義な研究がされることだろう。
 瀧尾は地学部員たちと共に、隕石落下地点と思しき周辺を這いずるが如く探索した。
 結果、採取した現物だという。
「どうして隕石ってわかんの?」
 またもや、誰かが疑問を口にする。
「いいか?君たち。まず、隕石というのは何かを説明しよう。平たく言えば、隕石は流れ星の燃え残りだ」
 流星は、宇宙塵という宇宙に漂う非常に細かな塵が、地球の引力により落下して発火するものである。ちなみに流星群となると、元は彗星が分解されたもの。
 瀧尾が、隕石は成分により石質隕石、石鉄隕石、隕鉄に分類されるのだと、続ける。落下してくる隕石のほとんどは石質隕石であり、主成分は珪酸塩鉱物となっている。珪酸塩とは、酸素と化合して、地殻を構成する鉱物の成分のことだ。
 つまりは岩石だろうと扉夏は思うのだが。
 最早この辺りから、滔々と続く講釈を真面目に聴いている生徒はいなかったかもしれない。
 ぼんやり、隕石と地面に元々転がっている石との区別は、どうやってつけるのだろうかと考える。
 扉夏は、兎の群集が餅つきの杵で月面を叩き割り、欠片となった月が次々に流星となって、やがては流星群となり、地球に散々と降り注ぐ夢を見た。
 白昼夢である。あまりにも非現実に過ぎた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫