《MUMEI》
思い出しながら
また電車が走りはじめてから

急に思い出したように心臓が騒ぎだした。

しかも聞かれてもない名前までも答えてしまった。

テンパっちゃったよ、だってあの侑くんだよ!?

でも―――気分がおさまってから、芹奈は侑の顏を思い出した。

ストラップを踏んでしまった時の「やってしまった」という侑の顏。

代えの利かない品物とわかったときの沈んだ表情。

どうしようと呟く途方にくれたような声。

もっと冷たい人だと思っていた。他人が傷付いたって気にしない人なんだと。

芹奈は足元の何もない空間を見つめた。

さっきまで、そこに侑がしゃがんでいた。見つめあった綺麗な目

ストラップのかけらを拾う繊細な指、少しだけ交わした言葉。

まぶたを閉じてそっと、耳を手のひらで包んだ…

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